’90年代に発行された音楽雑誌「レコード・コレクターズ」ディヴィッド・ボウイ特集のサエキけんぞうさんの寄稿したコラムの冒頭にこんな思い出話が書いてあったのをいまだに覚えています。

サエキさんが友達に誘われて観に行った’78年のボウイさんの来日公演。当時、サエキさんはロック好きの大学生で、それまでボウイさんにはあまり興味を持っていなかった。(これはロック好き学生によく見られる現象。)

ライブ当日、サエキさんは開演時間に少し遅れて大阪の万博ホールに入ると、ホール内にクラシックのBGMが流れていた。

サエキさんはそれを聴いて「まだ、始まってなかったんだ」と安心したそうです。そして会場へ入る扉を開けた途端に、当時では全く聴いたことのないような新しい音が飛び込んできて、ライブが始まった。

この時のステージを体験して、すっかりボウイさんの魅力に目覚めたサエキさんは、早速ボウイさんのアルバムを集め始めます。この中で割と最近リリースされたアルバム「LOW」を聴いてみると、なんと、あの時ホールに流れていたクラシックのBGMが収録されていた。それが、名盤「LOW」の中でもさらにひときわ存在感を誇る名曲「ワルシャワ」だったというエピソードでした。

今回はDavid Bowieさんの個人的なおすすめアルバムレビュー第三弾です。

このころが個人的に一番好きな時期で、ボウイさんのファンのみならず、ロック好きの間でも、この時期のアルバムは評価が高い印象です。

このころのアルバムの数枚は、確実にロック史に残る名作だし、音楽好きなら絶対に抑えておいてほしい重要な時期と作品群です。

それでは、行ってみましょう!

Low(1977)

念願だったアメリカ進出を果たし、名盤Station To Stationを発表し、映画などの映像作品にも進出。周囲の注目度が高まっていた時期にボウイさんはROXY MUSICの初期メンバー、ブライアン・イーノとともにドイツのベルリン(当時は西ベルリン)のハンザ・スタジオにこもって次回作をレコーディングしているらしいと噂が流れました。

このベルリンのスタジオでイーノさんと共作で発表された3枚の作品がLow、Heroes、Lodgerの作品群。いわゆる「ベルリン3部作」です。

でも、プロデュースにはイーノさんの名前はなく、ボウイさんとトニー・ヴィスコンティになっています。

この辺は僕が音楽素人で、レコーディングというものがどういうシステムになっているのか全くわからないので、なぜプロデュースの中にイーノさんの名前がないのかいまだに理解できていません。

さて、そのベルリン3部作の第一弾が本作「Low」です。

僕はもちろん、リアルタイムで体験したわけではなく、’90年にRYKOからCDで再発されてからの後追い体験でした。そんな僕が初めて聞いた時点でも、このアルバムとつづく「Heroes」の音世界は衝撃的でした。まさに「こんなの聴いたことない!」としか言いようがない。

その衝撃は今でも続いていて、多分今現在に初めて聴いたとしても同じ感想になると思います。つまり、発表から40年以上たっているけど、いまだに色褪せていません。

このアルバムがのちの音楽シーンに与えた影響は計り知れないくらい大きいので、ここでは語りつくせません。この件に関してもまた別に記事にしたいけど、おそらく、自分の知識不足と考察力のなさで、まず無理だろうな。興味があったら音楽解説書を読んでみてください。

ちなみに僕が買った時の日本での再発CDシーリーズに入っていたライナーノーツに記事を書いていた人は女性で、ちょっと「アイドルディヴィッド・ボウイの追っかけ」っぽさがあって残念だった印象。今は違うライナーノーツだといいけど。

CDで聴くと全体を一つの流れで聴いてしまうけど、アナログ時代はA、B面でしっかりコンセプトが分かれていて、A面はポップス曲を基調に音で実験というか遊びまくっている印象。もっといえば遊び散らかしたままで、片付いてない。でも、そういうまとまってない感じも好きですね。

特に4曲目の”Sound And Vision”が好きで、冒頭の心地よいギターリフだけでもずっと聴いていられる感じだけど、中盤あたりからいきなり入ってくるボウイさんのボーカルと女性コーラスがこの曲を異彩なものにしていますね。ギターだけだったら本当にただの環境音楽です。

さらに余談だけど、Youtubeで見たBECKさんによるこの曲のカバーが良かった。オーケストラを指揮して、ゴスペル合唱団も組み合わさって、BECKさんらしい解釈とアレンジです。

そしてB面は長尺のインスト曲が揃っています。サエキけんぞうさんがクラシックだと思った「ワルシャワ」の存在感がすごすぎる。この曲によって、CDで聴いていても、ここからテーマが変わるんだという目印になります。

ノリで聴く、ライブでノルために聞く。「キャラクターが好きなミュージシャンを応援する一つのアイテムとしての音楽」ではなく、一つの作品としてじっくり聴く、聴かせるアルバムです。聴く価値のあるアルバムです。

Heroes(1977)

こちらは、ベルリン3部作第二弾。Heroesです。ジャケット写真は付き合いの長いボウイさんからの信頼も厚い鋤田正義さん。この記念すべき作品の一部に日本人が関わっているというのは誇りだし、素直に嬉しいですね。

2013年に発表されたボウイさんのアルバム”The Next Day”のジャケットでも、この写真を逆説的にさらにアレンジしたものが使われていました。

この記事を書くためにAmazonのこのアルバムのレビューを見てみたら、2016年にボウイさんが亡くなった時の追悼コメントがズラリ。ボウイさんの訃報を聞いて、このアルバムを購入し直した人がいっぱいいたみたい。

ということは、もっともボウイファンに愛されたアルバムということになるのかな?なにしろ、これだけの人がボウイさんが亡くなったと聞いて、まず、このアルバムを思い浮かべるんだから。

アルバムとしての評価はさておき、シングル曲でもあるタイトル”Heroes”がボウイさんのシングル曲の最高傑作という意見には完全同意です。このシングルだけは特別感があるので。NME japanが選ぶディヴィッド・ボウイの名曲ランキングでも1位に選ばれていました。

比較するのもおかしいかもしれないけれど、ジョン・レノンの「イマジン」みたいな立ち位置にある曲だと思います。

そういえばこのアルバムも「イマジン」みたいな立ち位置かもしれない。傑作だけど、イマイチ前作に及んでいない。それでいて、名曲”Heroes”,”Imagine”という絶対的な評価を受けるシングル曲を収録している。

Amazonのレビューをもう少し読んでみると、”Heroes”は名曲なのに、絶対的にカバーが少ないと書いている人がいました。なるほど。

そういえば”Imagine”もカバーなんて聞いたことないですね。カラオケではすごく歌われてそうだけど、”Heroes”はカラオケでも無理だと思う。

個人的には5曲目の”Blackout”という曲が好きで、シングルカットされてたら結構ヒットしたんじゃないかな?この曲でとくに目立ってるけど、カルロス・アロマーのものすごい高音ファルセットのコーラスはボウイさんのこの時期の曲の一つの特徴だと思います。

冒頭で紹介したサエキけんぞうさんのコラムでも、ボウイはジョン・レノンの弟のような存在と言っていました。

King Crimsonのロバート・フリップの参加も大きいし、話題にもなりました。

Stage(1978)

ボウイさん、2作目のライブアルバムです。

彼の音楽面での絶頂期のツアーがこうして公式にライブアルバムとしてリリースされているのは、後追いファンとしては嬉しい限りです。

この時期の来日公演でNHKホールでの様子がテレビ放映されたそうだけど、まだ見たことがなくて、ぜひ見てみたい。disc化でも配信でもいいので、何らかの形でまた解禁してほしいな。

このアルバムを聴けばファンの人たちからのこの時のツアーが最高だったという声にも頷けます。キャリア全盛期に最高のパフォーマンスをしています。

とにかく、サエキさんのコラムにもある通り、ライブのオープニングは名盤「Low」の「ワルシャワ」だったわけだけど、この音を当時の技術でライブで演奏していたんだからすごいとしか言いようがないね。

バンドメンバーもボウイさんのツアー史上最強メンツと言われています。この時期のボウイさんの片腕ギタリストカルロス・アロマーと説明不要の天才ギタリストエイドリアン・ブリューのダブルギターとかすごすぎる。キーボードはユートピアのロジャー・パウエル。ボウイさんはトッド・ラングレンとも交流あるのか?(当たり前か!)ベースはジョージ・マレイ、ドラムはデニス・デイヴィスと、Young Americansからの信頼おけるリズム担当。

当時、エイドリアン・ブリューはフランク・ザッパバンドのメンバーとして知る人ぞ知る存在で、ボウイのこのツアーに参加して一気に知名度を上げました。Talking Headsのアルバム参加の方が有名かな?彼は、のちに自分のバンドを結成して単独でデビューします。

ワルシャワ以外にも聴き処満載のアルバムだけど、個人的に一押しは、大好きな曲Station To Stationです。冒頭の機関車の「シュッシュッシュッシュ」って音はサンプリングSEなのか、それともエイドリアン・ブリューがギターで鳴らしているのか?彼はそういうギター奏者です。この音にもう一つのギターが絡まって行って、次第に助走から疾走へと向かう機関車の映像が目の前に現れるようです。そして、ボウイさんの登場で、ドラマチックに盛り上がりを見せ、最後まで突っ走る。この時、映画「クリスチーネ・F」でのライブシーンが思い起こされます。10分を超える大作。アルバムバージョンの進化版であり、1つの完成形だと思う。これをライブで体験したら最高だろうな!

オリジナルのアナログレコードはもちろん、僕が初めて聴いた再発CDでも、1枚目がボウイさんのこれまでのキャリアの人気曲を詰め込み、2枚目が”Low”,”Heroes”からのレパートリー中心。本来、最初は「ワルシャワ」で始まる2枚目が先に来るはず。最近の再発盤では、順番が修正されているらしいです。

NHKで放送された日本公演のみならず、このツアーの時の映像は残っているはずなので、何とかこの当時の映像もぜひ見てみたい。

Lodger(1979)

ベルリン3部作の最後を締めくくる第三弾。

しかし、よく言われるようにベルリン3部作のラストとしては、かなり残念な作品になっています。後追いの僕ですらそう感じます。リアルタイムでこの時代を体験していた人は、”Low”,”Heroes”の流れで期待していたので、肩透かしを食らっただろうなとは思います。

ただ’80年代に商業的な大成功を収めるボウイさんから入った僕のような世代としては、こういうポップス路線もそれほど違和感なく受け入れられました。

僕がリアルタイムで体験していた”Let’s dance”以降のボウイさんは音楽に対する情熱を失ったなんていう批判もありますが、このアルバムを聴くと、そういうポップス路線が次のボウイさんの新しい変化なんだろうなと好意的に捉えました。

実際当時大流行のMTVを意識して、”D.J”,”Look Back In Anger”,”Boys Keep Swinging”は凝ったPVが制作されてヒットしました。

そして、この再発CDリリース後に僕はブライアン・イーノにも興味をもって色々聴いてみたのですが、ソロになってからすぐ発表されたアルバム数枚が非常にポップな作品群で、この”Lodger”の作風に一番近いと思いました。

でも、面白いのは、このベルリン3部作以降、ブライアン・イーノは環境音楽に走り、ボウイさんはポップス路線を突き詰めることになります。

さらにこの前の時期に同時にレコーディングされたイギー・ポップのソロアルバムにプロデューサーとして関わっていることも影響しているようですね。

でも確かに、ベルリン3部作のラストとしては残念。

Scary Monsters(1980)

初期の頃から10年お世話になったRCAからのラストリリースになる作品です。そういう意識はボウイさんにも少なからずあっただろうし、だからこそ中途半端なものは作れない、できれば傑作と呼ばれるものを残してラストを飾りたかったんじゃないかな?

でも、RCA時代を振り返る作品なんて評価をよく見かけるけど、ヒット曲”Ashes To Ashes”の歌詞には、トム少佐という人物が登場するが、この人がボウイ初のヒット曲”Space Oddity”の歌詞に登場する架空のキャラクターです。

”Space Oddity”では、宇宙飛行士として描かれ、映画「2001年宇宙の旅」さながらに宇宙に放り出され孤独になる(スターチャイルドにでもなったのか?)という内容だが、”Ashes To Ashes”ではトム少佐は実はジャンキー(麻薬中毒者)でしたという残酷なオチになっています。

僕はなるべく音楽のレビューを書くとき歌詞には触れないようにしてきたけど、この曲の歌詞には触れざるをえないですね。ボウイさんなりのRCA時代の結論がキャリアの全否定になってしまうのは悲しいですね。でも、今ではキャリアの全否定ではなく、当時のボウイさん自身の薬漬けの生活を反省しているんだと捉えています。

またこの曲”Ashes To Ashes”はPVが秀逸の傑作。近代舞踏の第一人者リンゼイ・ケンプ氏に学んだパントマイムや演劇的な演出方法を存分に発揮しています。

俳優も経験したロックミュージシャンはたくさんいるけど、ジャンキーのトム少佐を演じられるような演技力を持ったミュージシャンなんて他にいないだろうね。同じリンゼイ・ケンプに学んだケイト・ブッシュが思いつくくらいかな?

またアルバムの作品自体も評価が高いみたい。後半部分、つまりアナログでいうB面が残念という意見もよくあるけど、なんで?と思う。B面1曲目にあたる”Teenage Wild Life”なんて最高なのに。

それと、2曲目の”Up The Hill Backwards”と5曲目の”Fashion”がすごく好きな曲です。”Fashion”のPVもおしゃれです。

まとめ。Summary.

ボウイさんのアルバム解説、いかがだったでしょうか?

ここまでで終わりにした方が綺麗にまとまるけど、続くEMIに移籍してからのアルバムはリアルタイムで聴いていたし、個人的に思い入れが深いので、もう少し続けてみようと思います。すぐ次回で記事を書くかどうかはわからないけど。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

それではまた、お会いしましょう!

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